SS05


 ある日オレが家に帰ると、そこに両親の姿は無く、代わりにリビングでねっころがっている幼馴染の姿があった。
「あれ? 母さん達は?」
「有希子さん達なら買い物ー」
 まさかまたふらりと「本場のイタリアンが食べたいわねぇ」なんて言って飛行機に飛び乗ったのかと思いきや違った。どうやらただ単に、日用雑貨の買い出しに出かけただけのようだ。
「……マジかよ」
「何だよー。帰宅したら真っ先にママの顔が見たいって?」
「うるせぇ」
 いつもなら蹴りの一つも入れてやるところだけど、生憎と今のオレにそこまでの気力はない。
 ふらふらとキッチンまで歩き、冷蔵庫の中を覗き、食材はあれど今すぐ食べられる食事―――例えば昨日の夕飯の残り等が―――が無いことだけを確認すると、またふらふらとした足取りでリビングまで戻った。幼馴染は怠惰にも、ラグの上で腹這いになったままテレビを見上げている。
「……快斗、飯」
「残念。快斗君は飯じゃありません」
「腹減ったんだよ」
「オレはさっき、有希子さんがピザ作ってくれたばっかりだから大丈夫ー」
 いやあもう食った食った、とうつ伏せになりながらも快斗は脇腹を撫でる。腹いっぱい食った結果、苦しくなってごろごろしているというわけだろうか。いや、いつだってこいつはうちのリビングで転がっている奴だけど。
「残ってねぇのかよ、それ」
「ピザ? 残ってねぇよ。ピザなんか時間経ったら美味くも何ともねぇだろ。……つーか、新一がいつ帰ってくるかもわかんねぇのに、飯なんか残しとくかよ」
 言っていることは、悔しいけれどもっともだった。オレだって好き好んで冷えたピザを食べたいわけじゃない。けれど背に腹は代えられない。
 つまり今のオレは、とんでもなく腹が減っている。
 食べる物がないとわかると、一層空腹が増すような気がするのだから不思議だ。いや、単に胃袋が正常な活動を取り戻しただけなのだろうが。
「快斗、飯」
「残念。快斗君は飯じゃ……」
「オメーが飯じゃねぇことなんてわかってんだよ。だから作れって」
「そこで、どっからどうやって『だから』が出てくんのか真面目にわかんねぇんだけど?」
「オレは腹が減ってる。一仕事終えたばっかでくたくたに疲れてる。だからオメーがオレのために飯を作れ。以上」
「以上、じゃねーよ!」
 知るかんなこと! と快斗は叫ぶ。叫んだままに、ぷいっとオレに後頭部を向けて、またもやテレビに視線を戻してしまった。
 休日の昼時なんて、さして面白い番組がやっているわけでもない。見ればそれは再放送のバラエティで、特別見る価値のある番組だとは思えなかった。少なくともオレにとっては。
「……快斗」
「重い。乗るな」
「快斗、飯」
「自分の飯ぐらい自分で作りゃいいだろ。ガキじゃねぇんだから」
「快斗、飯」
「自分で作るの面倒なら、有希子さんが帰ってくんの大人しく待ってろよ。つか、途中で何か買ってくりゃ良かったじゃねーか」
「快斗、飯」
「あのなぁ、だからオレは……」
「快斗、飯」
「……快斗飯、快斗飯ってうるせぇよ! オメーは壊れたCDかっ!?」
 仕方ないだろう。何せまともに思考回路を働かせるのが面倒なぐらいには空腹なのだ。よく家まで歩いて帰ってこれたものだと我ながら思う。
「重いっつってんだろ。おいこら。どけ新一」
「……動くのめんどくせぇ」
「だからってオレを下敷きにすんじゃねぇよ」
 当たり前だけれど、同い年の男の背中の上というのは、まったくもって居心地がいいものではない。それでも一度、クッション代わりにもたれかかってしまえば、まあこれはこれでありかとも思えてしまう。何しろ今のオレはありえないぐらいには空腹なのだ。
「……快斗、飯」
「それ聞き飽きた」
 オレの顎は、今ちょうど快斗の背中に乗っかっている。
 乗りどころが良かったのか、快斗は「……あー」と心地よさげな声を出す。どけと言っていたのはだれなんだか。
 ぐりぐりぐり、とオレは顎を動かした。
「……あー、そこ。そこすげぇいい。うあ気持ちいいそこ」
「快斗、飯」
「うあーすげぇそこそこ。うんすっげぇ気持ちいい。けど飯は自分でどうにかしろ」
 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
「いいいいいっでえええええ! いってぇ! ちょっ、新一! いてぇ! いてぇっつーのいででででででっ!」
「快斗」
 飯、と言う前に、無理やり身体を起こした快斗によってオレはラグの上に落とされた。
 背中をさすりながら、快斗は涙目でオレを振り返った。オレの想像以上に痛かったらしい。
「何すんだよてめぇは! オレが何したっつーんだよ!?」
「何もしてくれねぇからだろ」
「んな元気があんなら自分で作れっ!」
 背中をさすりながら、快斗はオレから距離を開けて、再びラグの上に腰を下ろした。けれど警戒しているのか、うつ伏せにはならない。
 起き上がるのも面倒で、オレはずりずりとほふく前進をしながら快斗に近づいた。視線はテレビに向けられたままでも、快斗がしっかりオレの動きを意識しているのが気配でわかった。意地でもこちらを見るつもりがないのだろう。
 さすがにこれ以上痛めつけるのは可哀相か。
 第一オレ自身にも、もうこれ以上無駄にできる体力なんて一つも無かった。
 だから何も言わずに、あぐらをかいたその太股に顎を乗せた。今度はそれだけだ。顎を乗せるだけ乗せて、ただじっと幼馴染の顔を見上げた。
 オレがそうして顎を乗せたのが、ちょうどテレビがCMに入った時で、「……あー、くっそ!」と膝の主が声を上げたのが、そのCMが終わり再び番組が始まった時だった。なんてあっけない。
「わーったよ! 作りゃいいんだろ、作りゃ!」
「おお」
「作ってやるから、大人しくしてろ!」
「言われなくても」
 そもそも騒げる程の体力なんて無い。大体いつだって騒ぐのはオレじゃなくて快斗の方だ。
 オレが顎をどけると、快斗はやれやれと言いたげな態度で、けれど真っ直ぐにキッチンに向かって行く。オレの幼馴染は本当にチョロイ。
 と、快斗が振り返った。
「……今、オレのことチョロイとか思っただろ」
 ただチョロイだけではなく、無駄に勘がいいところもこいつのすごいところだった。時と場合によっては、オレはこいつのそんなところを好ましく思ったり思わなかったりする。今はどっちでもいい。
「言っておくけどなあ、オレがチョロイわけじゃねぇぞ。あんな風に可愛い顔見せられたら、何でもころっと言うこと聞くような、そんなチョロイ男なわけじゃねぇぞ!」
「……あぁ?」
 可愛い顔って何だ。オレは無言の圧力をかけただけであって、間違っても可愛い顔なんざしていない。
 そもそも男な時点で可愛い顔って。どこにも無いだろうそんなの。
「オレがチョロイんじゃなくてなぁ! これは! オメーのことが好きだから! 恋人を大事にしたい男の一般的な心理であってなぁ……!」
「あぁうんどうでもいいから早く作れよ」
「……っ」
 快斗は何か言いたげな顔をしたが、オレが「早く」と追い払うように手を振れば、そのまま黙ってキッチンへと消えて行った。
 良かった。これでようやくオレは飯にありつけそうだ。


「適当なもんしか作れねぇけど、何でもいいだろ」
 と、キッチンから声をかけられたから、オレは素直な気持ちでもって答えた。
「おう。美味かったら何でもいいぞ」
「……美味かったらとか注文つけんじゃねぇよ」
「何でだよ。不味かったら食いたくねぇだろ」
「…………」
 快斗はまたもや無言で引っ込んでしまった。だから一体どんな料理が出されるのかとオレは内心で不安になったのだが、程なくして出てきたのは、普通に美味しそうなグラタンだった。
「ほら、食えよ」
「お、サンキュ」
 見るからに熱そうではあるけど、幸いにもオレは猫舌ではない。スプーンを突き刺せば、グラタンかと思っていた料理は違った。
「あ、ドリアか?」
「何だよ。ドリア嫌いかよ?」
「や、そうじゃねぇって」
 チキンライスは普通に美味い。もちろんその上にかかっているソースだって。普段外に食べに行ってもドリアなんて自分で注文もしないから、食べたのは久しぶりな気がした。
「うん、美味い」
「けっ。腹減ってるから何食ってもそう思うだけなんじゃねぇの?」
「まあそれもあるかも」
「…………」
 反対側の椅子に腰を下ろした快斗は、黙りこんで自分の皿にスプーンを突っ込んだ。味見なのか、それともただ単に多く作りすぎてしまっただけなのか。オレのよりも一回り小さな皿によそったドリアを食べている。
 しばらくの間、オレ達は無言でそれぞれのドリアを食べていた。猫舌でなくても、オーブン料理は熱く、食べるスピードはどうしても遅くなる。遅くなる分だけ徐々に胃袋にも溜まって行く。
「……多くねぇ?」
 出された時にも思ったが、グラタン皿にはこんもりとドリアが盛られている。あと少しでチーズがこぼれてしまいそうだ。
「んだよ。腹減った腹減った騒いでたのはどこのどいつだよ。そんぐらい食えんだろ男なら」
「逆に考えてみろよ。二日間まともな飯なんて食ってねぇのに、そんなすぐがっつり食えるわけねぇだろ」
 何の自慢にもならないが、そもそもオレの胃袋は大きい方ではないのだ。ある意味で燃費がいいと言えるのかもしれない。少しの量で事足りるのだから。
「……は? オメー、二日間飯食ってねぇの?」
 快斗がきょとんと目を見開く。次いで、睨むようにオレを見る。失言だったかもしれない。
「食ってねぇとは言ってねーだろ。それなりには食ってたっつの」
「何を食ってたんだよ」
「……カロリーメイトとか? あ、あと卵サンド」
「食った内に入るかンなの! どこのダイエットしてる女子高生だよっ!」
「卵サンドでダイエットになるか? マヨネーズ使ってるし、腹にもたまんねぇからあんま向かねぇんじゃ……」
「オレが言いたいのはそこじゃねーよバーロー!」
 怒鳴ってから勢いよくドリアをかき込み、そして「あちっ!」と叫ぶ。こいつは馬鹿じゃないのか。知ってたけど。
「捜査中だろうが何だろうが、ちゃんと食事と睡眠はとれっつってんだろ! おまえは毎回毎回それをおざなりにしやがって……」
「だからちゃんとカロリーメイトと卵サンドを……」
「そんなんで足りるわけねぇだろうが! 隠居してるじいさんじゃねーんだぞ! 大体、腹が減ってたら脳の糖分が不足して、まともな捜査どころか推理なんてできねぇだろうが」
「そうでもねぇよ。空腹時の方が頭が冴えるって、ホームズも言っててだなぁ」
「……あー、このホームズオタク! うるせぇ、黙れ! さっさとオレの作った飯を全部食いやがれ!」
 何を一人で怒ってるんだ、こいつは。
 オレは一人の探偵としてホームズを敬愛しているだけだというのに、それを快斗はしょっちゅうのように「ホームズオタク」等と表現するのだから気分が悪い。
「なあ。多いってこれ」
 どうしてかすっかり不機嫌になってしまった快斗は、オレの声かけにも答えない。
 ドリアもグラタンも、どちらがより好きということはないのだが、これならグラタンの方が良かったかもしれない。ソースの下にぎっしり詰まったチキンライスはけっこうなボリュームだった。
 さすがに作ってもらった手前、しかも本人の目の前で残すのは気が引ける。けれどオレの胃袋の空き容量には限界がある。さてどうしたものか。
 とりあえず無言でドリアに向かうオレを放って、さっさと自分の分を食べ終えた快斗は皿を片し、今度はソファの上で腹這いになった。つくづく人の家で遠慮のない奴である。
「あら、新ちゃん。やっと帰ってきたの?」
 玄関で物音が聞こえるなと思ったその少し後、扉が開いて母さんが顔を覗かせた。
「ちゃんと事件は解決したのかしら?」
「ったりめーだろ。だれに言ってんだよ」
「そうよね。優作も何も言ってなかったし。今日か明日にでも帰ってくると思ってたわ」
 ふんふんと小さな鼻歌をもらしながら、母さんはキッチンに入って行く。冷蔵庫を開け、買ってきた食材を詰めているのだろうことが聞こえてくる音からわかる。さっき覗いた時、冷蔵庫の中はそれなりに食材がぎっしり詰まっているようだったのに、その上さらに何を買ってきたのだろうか。
「父さんは? 一緒に買い物行ってたんじゃねぇのかよ」
「そうだったんだけど、本屋に寄るっていうから私だけ先に帰って来たのよ。食材が傷んじゃうと思って」
「……あぁ」
 一度本屋に入れば、親父は早々出てはこない。それを言えば、オレも同じだと言われることはわかっていたから黙っておく。
 手ぶらで戻って来た母さんは、オレの手元を覗いて「あら」と楽しげな声を上げた。
「美味しそうなの食べてるじゃない。新ちゃんが作ったの?」
「……なわけねぇだろ」
「やっぱり?」
 わかっていて聞いてくるのだから性質が悪い。笑いながら、母さんはオレの後ろ頭を小突いた。
「まあったく。快斗君に甘えてばっかじゃダメでしょう、新ちゃん」
「甘えてねーよ」
「嘘おっしゃい。どうせ我儘言って作ってもらったんでしょう?」
「だから……!」
 甘えたわけではなく、オレは当然の権利を主張したまでだ。日頃こいつにはうるさいほど付きまとわれているのだから、たまに飯を作らせるぐらい当然のことだろう。
 と思うのに、母さんはソファの上でごろごろだらけている快斗に声をかける。
「快斗君。ごめんなさいねー、新ちゃんのお世話任せちゃって」
「……世話っておい」
「平気ー。慣れてるからー」
「おい。オメーもな」
「そうよねぇ。まったく新ちゃんてば、この年になっても手がかかるんだからねぇ」
「そうそう。まったく困ったもんだよなー」
「本人挟んで会話してんじゃねーよ!」
 せめてするなら人のいないところでやってくれないものだろうか。いや、それはそれで嫌なものだけれど。
 母さんは笑いながらキッチンに戻り、快斗はラグの上に転がっていたリモコンを手繰り寄せてテレビのチャンネルを変え始めた。どうにも退屈なのか、オレが半分程ドリアを減らす間に、快斗は手慰みのようにトランプを出したりしまったりしている。
 冷め始めたドリアはなおさら胃袋に重く圧し掛かる。潔くオレはスプーンを置いた。
「快斗」
「……んだよ」
 どうしてこいつは、こんなにも不機嫌な顔をしているのだろう。そんなにも背中が痛かったのか。
「飯多いって」
「ちゃんと食え」
「食えねぇから言ってんだろ。食えたら普通に食ってるっつーの」
「いいから食え。黙って食え。人がせっかく作ってやったんだから死んでも食え」
「よし、それでオレが本当に死ぬようなことになったら、死ぬ間際にダイイングメッセージで、おまえが犯人だって残してやるからな。覚えてろよ」
「それ聞いたからには、オレが真っ先におまえを見つけて、ダイイングメッセージを消してやるから安心しろよ」
 だから食えって、と、突き出した手の平にぐいっと額を押される。その顔は変わらず険しい。
 何が原因だったのだろうか。オレがしつこく飯をねだったことか、その後の背中への攻撃か、はたまた二日間まともな食事をとっていなかったことに関してか。
 考えてもよくはわからない。推理になれば話は別だが、人の感情や心理ともなれば、そこは推理の及ぶ場所ではない。人によって考え方も違えば、感じ方だってそうだ。そうして快斗の思考回路は、わかりやすい時もあればそうでない時もある。多分、掴みどころがないと言うのだろう。
 あるいは、親しすぎるからなのか。
 距離が近ければ近い程、客観的な見方ができなくなる。それは探偵にとっては致命的だと、わかっているから内心で歯噛みする。こんなことではいけない。
「なあ」
 オレの言葉を無視するように、快斗はリモコンをテレビに向けている。
 黒羽家では入っていない有料放送に、うちのテレビはどうやら入っているらしく、快斗はしょっちゅうのようにテレビを見に我が家にやってくる。多分オレよりも、そのリモコンを握っている時間は長いのではないだろうか。何せオレは捜査に出ている時間の方が長いものだから。
 そうしながら、片方の腕が背中に伸びた。
 さりげない仕草だった。さりげなく、無意識のように、その片手が背中をさすっていた。
「……快斗」
 そんなにも痛かったのだろうか。痛みに弱い奴ではないから。だから普段も、平気で蹴り飛ばしてしまうのだけれど。
 悪かったかなと、珍しくも素直にそう思ったから、オレは黙って顔を近づけた。腹はいっぱいで、そうして捜査明けということもあって眠く、ついでに今のオレの気分が良かった。何せ当初の事件に続き、芋づる式に別の事件の犯人まで捕らえることができたのだから。その所為で余計に時間はかかってしまったのだが、偶然にしては出来過ぎた結果に満足していた。
 だから今日は、特別だ。
 何せ腹はいっぱいでその上眠く、犯人を二人も逮捕した後なのだから。
「飯美味かった。サンキュ」
 触れた頬は温かかった。オレよりも体温の高い快斗らしかった。
 きょとんと見開かれた目がこちらを向く。何かマジックの仕込みをしている最中だったのか、袖からばらばらとトランプが零れ落ちてきて驚いた。仮にもマジシャンの端くれとしてこれはどうなのだ。
「……お、ま……っ」
「ん?」
「……不意打ちで、こういうことするなって……っ!」
「予告したら面白くも何ともねぇだろ」
 と言うよりも、予告した時点でオレのやる気なんて失せてしまう。何が悲しくてそんなことをしなければならないのだ。
 まじまじと見つめる先で、快斗はぐるぐると視線の先を彷徨わせていた。日頃から思っていたが、本当に落ちつきがない。そうして赤い顔のまま、クッションにぼすっとその顔を埋めてしまった。
「……あー、もう、マジで止めろって! 本当! 心臓に悪いから……っ!」
「じゃあもうしねぇよ」
「いやいやそれはっ! ぜひともしてほしいんですけどっ!」
 がばっと顔を上げて快斗は言う。どっちなんだ一体。
「だから、こういう何気ない瞬間に! 当たり前みたくするのが本当心臓に悪いっていうか……!」
「なら、いつならいいっつーんだよ」
「そりゃもうもちろんベッドの中で?」
「却下」
 それこそ当然のごとくオレがそう言えば、とたんにソファの上で快斗は非難の声を上げる。何を考えているんだろう、こいつは。
 ラグの上に座ったまま、オレはソファにもたれ掛かるようにして背中を預けた。後ろからは快斗の非難の声が続いている。
「大体なー! オメーは、オレに対する思いやりってもんが足りねぇんだよ! オレがどんだけおまえのことを心配してるかなんて、ちっともわかってねぇんだろ!?」
「はいはい」
「オレはいつだって! いつだって、新一のことを心配してるっつーのに! なのに、オメーは平気で食事も睡眠も抜きやがって! こっちの注意なんて何一つ聞きやしねぇで!」
「はいはい」
「そのくせ、連絡もなしに帰って来て、自分の気が向いた時だけひっついてきやがって……あー、くそっ!」
「はいはい」
「……オメー、オレの話聞いてないだろ!?」
 そんなことはない。
 こうして返事をしているのがいい証拠だろうと思いながら、オレは快斗の手からリモコンを奪い取った。

...12.07.02
ずっと快斗の一人称だったので、この辺りで新一の一人称も書きたいなぁと。
新一が快斗に甘える時は、眠い時・空腹な時・暇な時のどれかだといいなと。でも最近書く度に糖度が増してるなと思います。