ピアスの穴に見た未来は何色だった?
もしかしたら輝かしい未来を想像して、その幾つかの穴を開けてみたりしたのだろうかとも思うけど、オレにはよくわからない。お得意の推理なんて役立つわけもなく、これではただの想像にしか過ぎない。
「痛くねぇのかなぁ。あんなぱちぱち穴開けちゃって」
横に座っていた弟はそんなことを言う。正確には、オレの隣に腰掛け、オレに背中を向け、オレに持たれかかるようにして座り顔だけをテレビに向けた弟が言う。
「ぱちぱちって何だよ。拍手でもしてんのかよ」
「ほら、穴開ける機械あるじゃん。ぱちぱちって。うわ想像しただけで痛ぇ」
「そんな軽い音で開くもんなのかよ? つーかさっきから重ぇよ。どけ」
「オレは重くない」
「オレが重いっつってんだよ」
いつからオレはこいつの背もたれになったんだ。ソファには文字通り背もたれがついているのに、あえてオレに寄りかかろうとするその考えがわからない。嫌がらせか。嫌がらせなのか。
突き出した平手で、癖毛頭をぐいっと押してやる。ぶつぶつと何かを呟きながらも、やっと弟は離れて行った。そうしてソファに座り直す。最初からそうしていればいいんだ。
「痛くねぇのかなー。あんな両耳に穴ばっか開けちゃってさ」
テレビには最近話題のモデルが映っている。特に興味もないバラエティニュースを見ているぐらいには、今のオレ達は暇だった。
「身体に穴開けんだからそりゃある程度は痛いだろ」
「だよな痛いよなぁ。オレ絶対無理。穴開けるとか絶対無理。注射とか点滴とかもマジ無理」
「後ろ二つは我慢しろよ」
「してるけど! 慣れねぇっつーかさぁ……オレはしょっちゅう怪我ばっかしてる新一とは違うから?」
確かにオレは平均的な高校生と比べれば怪我も多い。あれだけ事件に巻き込まれて、むしろ怪我をしない方がおかしいだろう。
それに比べて快斗はずいぶんと健康的な高校生だ。虫歯にもならなければ、オレの引いた風邪が快斗にうつることもない。バカは風邪をひかないという言葉をその身でもって体現しているような奴だった。金がかからなくて何ともけっこうなことである。
「オレだってな、別に好きで怪我してるわけじゃねぇぞ」
「好きで怪我してたら問題だろ。どんなマゾだよそりゃ」
「まあな」
その通りすぎて何も言えない。この弟に論破されると、妙に腹立たしいのはどうしてだろう。
「新一はさー」
「何だよ」
「ピアス開けたりしないよな?」
そりゃ校則で禁じられてるからな、とは言えなかった。
今のところそんな予定は無かったけど、決めつけるような言い方が何となく気に障った。全て見透かされているかのような。オレの気の所為なのかもしれないけれど。
「さあ」
だからそんな風に答えてやれば、音を立てるかのようなスピードで、快斗はばっとこちらを向いた。
「開ける気なの?」
「先のことなんてわかんねぇだろ」
見ていてカッコイイと思う瞬間が無いわけでもない。好きなサッカー選手の耳元を見た時なんかに。
「止めろよ。痛いってあれ絶対」
「怖がる程の痛みじゃねぇだろ。世の中どんだけ開けてる奴がいると思ってんだよ」
「新一には似合わないって」
「うるせぇな」
同じ顔でそれを言うのか。
でも、同じなのは造りだけで、それ以外は正反対だとすら言われるオレ達だから仕方ない。
「でも、新一」
「オメーには関係ねぇだろ」
黙ってろと言えば、珍しい程の素直さで快斗は口を閉じた。オレは少し驚いたけど、ここで話しかけてまたうるさい言葉が返ってきたのではたまらない。
ニュースはとっくに別の話題に移っていて、やっぱりそれも興味を引くものではなかったけど、他に見るものもなかったから惰性で見続ける。暇な時に限って、不思議と携帯という物は鳴らないように出来ているのだ。少なくともオレにとっては。
ふいに快斗が動いた。グラスが空にでもなったのかと思い、オレはソファに深く腰掛けたままだった。それがいけなかった。
「……ッ」
初めて感じた痛みだった。当り前だ。
だって普通に生活をしていれば、まさかそんなところに怪我を負ったりなんてしない。いくら怪我をすることの多いオレだって。
耳朶に噛み付いてくる犯人なんていない。
「……何しやがるっ!」
慌てて噛まれた右耳に手をあてた。ほんの少し濡れている。けれど、確認した指先に血はついていなかった。そのぐらいの手加減はさすがにしたということだろうか。まったくありがたくも何とも無かったが。
「何考えてんだよ、オメーは! ふざけるなよ快斗……!」
「穴開けるのってもっと痛いんじゃない?」
悪びれた様子もなくそんなことを言う。
だから。だから一体何だというのか。どうしてオレは今、弟に耳を噛まれたのか。全く理解できない。
「……何言ってんだよ」
「まあ新一は? オレより痛みにも強そうだし? その辺は気にならないのかなぁとも思うけどさ」
伸びた腕は、噛んだ耳を触ろうとしていたのだろうか。反射的にオレが身を引けば、快斗は小さく笑って腕を引っ込めた。何が何だかわからない。
「余計な穴なんて開けないで欲しいなぁっていうか」
「だからって、お前な……」
「でも、それでもどうしても開けたいっていうのなら、オレに開けさせてね?」
その開け方とは、一体どういった方法を指しているのだろうか。
もちろん開け方なんて普通は決まっている。でも、今も平気で人の耳を噛みやがったこいつが。もし同じ方法を取ろうとしているのなら。ありえないと思いつつも、弟の考えていることが時たまオレはわからない。理解できないのだ。
耳朶はまだかすかに痛んだ。
オレの目の前では、何も考えていなさそうな顔で、弟が笑っている。
「快斗」
「なに、新一?」
とりあえず噛まれた礼にと、オレはその頬を張り飛ばした。
勢いのままにソファから転がり落ちた快斗は、起き上って「いてぇ!」と文句を言う。こっちだって痛かったのだからお互い様だ。一体何を言っているのだろう。
まったく、今日も弟の思考回路は理解できない。
...12.05.20
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[リライト] 「ピアスの穴に見た未来は何色だった?」
双子パロの快斗は、一見無邪気に見えるようで、実は新一に対してちょっと歪んだぐらいの独占欲を持ってるといいなぁと思います。