残響 extra2
「夕飯、どっかに食いに行くか」
 作るのも買いに行くのも面倒でそう声をかければ、クッションを抱え込んでラグの上に寝転がりながら、黒羽は「えー?」とした顔を返してきた。言葉はなくとも、表情が豊かな男の相手はこれだから困らない。
 困らないが、その反応に工藤は若干機嫌を損ねた。何も黒羽のためを思って誘いをかけたわけではないが、どんな種類の誘いにしろ、気乗りのしない態度を返されれば、そりゃあ機嫌も下降するというものだ。
「何だよ。コンビニ弁当は飽きたっつたのはオメーだろ」
『外行くのは嫌』
「外に行かなきゃ食うもんもろくにねぇぞ。……つーか携帯使うな」
『工藤さん何か買ってきてー。コンビニ弁当とマックと牛丼以外で』
「注文ばっかつけんじゃねぇよ。だからな、携帯使うなっつってんだろ」
 思わず手を伸ばし、黒羽の掴んだ携帯を奪い取っていた。卑怯だったかと思ったが、あっさり奪われたところを見ると、黒羽もはなから抵抗する気はなかったのだろう。
「何で外に行きたくねぇんだよ」
 ただ行くのが面倒なだけだろうか。時たま黒羽は、そうした怠惰さを見せるのだ。
「だってー。七時から南極ペンギンの特集やるから」
「……南極ペンギン?」
「南極ペンギン」
 クッションを抱え込んだまま、こっくりと頷いた。
 南極ペンギン。そういえば以前にも、ペンギンの特集番組を見たがっていたことを思い出す。録画を頼まれたが、結局のところ黒羽は直接工藤の家まで見にやって来たのだ。
 ペンギン特集だなんて、大の男がこぞって見るものだろうかと不思議で仕方ないが、ある程度の需要はあるからこそ、そうした特集が組まれているのだろう。趣味は人それぞれだ。
「ペンギン好きなのか」
「うん。可愛いじゃん」
 ご丁寧に黒羽は新聞を引き寄せ、これこれ、とばかりに番組欄を見せてくれる。過酷な環境の中、子育てに励む南極ペンギンの姿を数年に渡って追った記録なのだという。工藤には全く持ってどうでもいい番組だった。
「ふうん」
「工藤さんペンギン嫌いなの?」
「嫌いっつーかどうでもいい」
「何で。ペンギン可愛いのに」
「いや可愛いかもしれねぇけど、そういうのに興味を持たねぇ人間もいるんだって」
「えー」
 工藤の返事は、黒羽にとっては納得できる類のそれではなかったのだろう。それは自分の方だと言いたかったが、ホームズ好きにしたって同じことだ。工藤のようにホームズを愛す男もいれば、そうでない人間もいる。そう考えれば納得もできる。
「ペンギン可愛いよなぁ。何かちょっと鳩に似てるしさ」
「……なるほど」
 黒羽が自身の銀鳩を可愛がっていることはもちろん知っている。同じ鳥類ということを考えれば、黒羽がペンギン好きなことも納得できる気もした。
「いいなー。生のペンギン見たいなぁ。泳いでるところ見たいなぁ」
「見に行きゃいいだろ」
「南極に? ちょっとそれは遠いかな」
「そうじゃねぇよ。普通に水族館とか―――」
 言いかけて言葉を噤む。その前に、黒羽が顔を背ける方が早かったが。
 背けたのは、唇の動きを読んでいたからだろう。そうであれば今更背けることに意味はあるのかと思ったが、必死な顔を見ていれば、そんなことも到底言えなくなってしまう。
 黒羽の極度の魚嫌いは、一体何が原因なのか。気になるが、水族館と聞いただけでこれなのだ。到底聞けるはずもないとはいうものだ。
「……あー、じゃあ、動物園とか。一緒に行くか、今度」
 工藤に動物園に行く趣味はない。それこそ事件でも起きなければ、まず行くことはないだろう。
 それでも、黒羽が行きたいと言うのであれば、喜んで付き合うつもりはあったのだ。恋人のために、その程度のこともできない男ではない。
「えー」
 けれどそんな再度の誘いにも、黒羽は同じ顔を返してくるのだ。頬を抓ってやろうかと、すかさず工藤が考えるような顔だった。何て憎らしい。
「何が不満だよ」
「だってー。水族館で、のろのろしてるペンギンしかいないじゃん。そうじゃなくて、オレは泳いでる! 生き生きしてる! 生を享受してる! そういうペンギンが見たいの!」
「……じゃあもう南極行くしかねぇな」
「ひどいっ!」
 いささか大きな声で黒羽は叫んだが、いい加減相手をするのも面倒になっていた工藤は、そのまま新聞を突き返した。
 大人しく夕食を調達してくるとしよう。コンビニ弁当とマックと牛丼以外となると何だろうか。いっそ寿司でも買ってきてやろうかなんて。
「あ、工藤さーん」
「……何だよ」
「オレ、パスタがいいなー。麺茹でるから、何かソース買ってきて。クリーム系のがいいなー」
 話しかけているというのに、黒羽はこちらに顔を向けない。つまりは、言いたいことだけを言って、工藤の言葉は効く気が無いということだ。
「……オメーな」
「行ってらっしゃーい」
 手の代わりだろうか、ふりふりと黒羽は両足を振って返す。
 何て腹の立つ態度だろうか。トマト系のソースを買って来てやると、思いながらに工藤は上着を手に取った。
 結果コンビニで何を買ってきたのかなんて、もちろん言うまでもない。惚れた弱味という言葉を、こんな時程実感する瞬間は無いのだった。


 その日事件で呼ばれた先が、たまたまおもちゃ屋だったのだ。
 事件自体は簡単なものだった。そう言ってはあれなのかもわからないが、発作的な犯行はさほどの謎もなく、工藤が到着してから一時間足らずで終息を見せるという、スピード解決だった。馴染みの刑事はこぞって工藤の手腕を褒め称えたが、逆に居心地の悪さを覚える程であった。
 その帰り際、棚に並んだぬいぐるみにふと目が止まった。
 当然営業は終わっていたが、無事事件を解決した探偵に、店長は快く商品を売ってくれた。ともすればそのまま押し付けられそうな程だったが、そこは頑なに固辞した。そうした行いは、工藤が好むものではなかった。事件とは関係のない事柄であるからだ。
 そんなわけで、工藤はそのぬいぐるみを手に家へと帰った。
 メールが入っていた通り、家には黒羽がいた。我がもの顔で寝っ転がり、ポテチを食べていた黒羽に、工藤は手にしていたぬいぐるみを差し出した。
「ほらよ」
「……何これ」
 すかさず満面の笑みを浮かべ、大喜びでぬいぐるみを抱きしめる―――なんて姿を想像したわけではないが、真顔を返されるとこれはこれで困る。
「好きなんだろ」
 ペンギンが。
 だからつい、目に留まったぬいぐるみを、買わずにはいられなかったのだ。
 傍にいた刑事には、もちろん冷やかされた。恋人への土産だと思われたところは間違っていないが、その相手がよもや男だとは思っていないところだろう。工藤自身だって、自分がまさか、男相手にぬいぐるみを買う羽目になるとは思わなかったのだ。今の今まで。
「……あぁ、うん」
 好きだけど、と呟くものの、なかなか黒羽はぬいぐるみを受け取ろうとはしなかった。
 そこになって、ようやく工藤は気づいたのだ。ペンギンが好きだとは言っていたが、生のペンギンが見たいとは言っていたが、けれどぬいぐるみ的なそれにまで興味があるとは、黒羽は決して言ってはいなかったのだと。
 よく考えずとも、黒羽は男だ。動物好きな男なんて珍しくはないだろうが、その男たちが皆、ぬいぐるみを愛でているとは思えなかった。
「……いや、だから」
 よもや自分は、とんでもない思い違いをしていたのだろうか。
 探偵らしくもない。いや、そもそもの思考回路がおかしかったと言うべきか。
「悪い。だから、その。つい、目に入っちまったもんだから。その、おまえの顔が浮かんで。だからつまり」
 言えば言う程、墓穴を掘るだけのような気がした。
 相手が女性であればいいのだ。女の子であれば。多少趣味でなかろうと、女の子相手であれば、ぬいぐるみを買うという行為も許される気がした。それは工藤の甘えなのか。
「……だから」
 差し出したぬいぐるみを、その手を、引き戻すタイミングを、すっかり工藤は失ってしまっていた。
 首元には、丁寧にリボンまで巻かれている。工藤は何も言わなかった。言わなかったが、この年の男がぬいぐるみを買うとなれば、当然プレゼント用だと思われて当然なのだろう。事実そうであったのだから間違いではない。けれど今は、そのピンクのリボンすら痛々しかった。
「……うわぁ」
 小さく黒羽が呟いた。
 同時に、工藤の手から重みが消えていった。
「びっくりした」
 淡々と黒羽は呟く。普段の表情豊かな顔が、嘘だと思える程には、無表情になっていた。声と同様、淡々とぬいぐるみを見つめていた。
「……無理に受け取らなくていいんだよ」
 ぬいぐるみをまじまじと見つめていた黒羽には、工藤の声は届いていなかったらしい。
 同じようにしゃがみこみ、ぬいぐるみを引き取ろうと腕を伸ばした。そうはさせじと、黒羽がぬいぐるみを抱きしめたのは同時だった。
「おい」
「何で。オレにくれたんじゃなかったの?」
「いや、だから……いらねぇもんを、無理に押し付ける気はねぇわけで……」
「え? オレいらないとか一言も言ってないけど?」
 むしろ嬉しいけど、と。
 淡々とした表情の中に、ようやっと笑顔を織り交ぜて、黒羽はそう言葉を返してきた。
 工藤が一瞬驚く程の、その笑顔の浮かびようで。ぎゅうぎゅうと、黒羽はぬいぐるみを抱きしめていた。離してやるものかという、それは意思表示のようにも見えた。
「工藤さんが、オレに買ってきてくれたんでしょ? オレがペンギン好きだからって知ってるから」
「……いや、だけど、おまえ、別に嬉しくなさそうだったし……」
「だって、工藤さんがいきなりぬいぐるみ抱えて帰ってくるから。驚くでしょ、普通に」
 さも当たり前のように黒羽は言う。そこまで驚くことかと考えて、まあそうかもしれないとすぐさま思い直した。自分自身、改めて考えて驚くぐらいなのだから。
「わー、工藤さんからのプレゼントだー」
 抱きしめていたペンギンの顔を見て、黒羽はにへらっと微笑む。
 しまりのない顔だった。だらしがないとも言えるのだろう。けれど悪くはない。むしろ好きだと工藤は思う。
「可愛いなぁ、おまえ。どこから来たんだよ。おいこら」
 ぐいぐいと黒羽はぬいぐるみをいじっている。迷惑がられなかったことに、今更のように安堵してから、工藤はキッチンへと向かった。コーヒーを淹れて戻れば、まだ黒羽はぬいぐるみをいじっていた。ピンクのリボンもそのままだ。
「名前をつけてあげなきゃなあ」
 そうして、工藤がマグカップに口をつけたところで、黒羽はそんなことを言い出すのだ。
「名前?」
「ん?」
「ぬいぐるみに名前つけるのか、おまえ」
「だってせっかくだから」
 まさか黒羽だって、常日頃からぬいぐるみに名前をつける趣味があるわけではないだろう。黒羽の部屋にはもう何度か足を運んだが、ぬいぐるみなんて一つもなかった。それを知っているのに、どうして今日、このペンギンを買ってきてしまったのかは、思い返してもわからない。
「そうだなぁ。何て名前がいいかなぁ」
 工藤の後悔をよそに、黒羽は膝に乗せたペンギンと向き合っている。
「うーんうーん」
 わざとらしい声だった。
 突っ込みを入れることも面倒になって、工藤は静かにコーヒーをすすった。身体をゆらゆらと揺らしながら、黒羽は「うーんうーん」と声を上げている。
「よし!」
「……あ?」
「工藤さんが買って来てくれたからー」
 言いながらに、にっこりと黒羽は顔を向ける。
「この子は佐藤さん!」
「……は?」
「工藤さんが連れてきてくれた子だからー、佐藤さん」
「……あぁそう」
 藤繋がりだとか、身近にいる名前だなとか、突っ込む気も失せるというものだった。何だか前にも似たような会話を聞いたような気がしたが、そうした名付けが好きなのだろうか。わからない。
「これから仲良く暮らそうなー、佐藤さーん」
「好きにしろよ」
 黒羽はぐにぐにとペンギンをいじくっている。
 どんな形であれ、気に入ってくれたのならいいのだ。安堵した心地で、工藤は息をもらした。
 視線の向こうでは、飽きることなくぐにぐにと、黒羽がぬいぐるみをいじっている。どうしようもないと、ただ思った。


 黒羽を誘って、少し遠出をした。目的は動物園だ。
 そこでは少し変わった動物の展示をしているのだという。予めどういった園なのか、その評判を知っていたから黒羽を誘った。結果は大成功だった。
 水中で泳ぐペンギンを、まるで水族館のように見ることができるのだ。けれど水族館ではないから、当然黒羽の苦手とするアレもいない。
『可愛い!』
 そんな携帯の画面を見せられずとも、表情を見れば言いたいことはわかるというものだった。
 にこにこと黒羽はガラスの向こう側を見つめている。興味は無いと思っていた工藤であったが、自由自在に水中を泳ぎ回るペンギンの姿を眺めるのは、それなりに楽しいものであった。黒羽にとっては、恐らくそれ以上なのだろう。
 ペンギン以外の動物も、もちろん楽しんだ。主に率先して楽しんでいるのは黒羽の方であったが、工藤は黒羽を楽しませるために連れてきたのであるから、そこのところに異論はなかった。
『ペンギン可愛かったね。あとアライグマも可愛かった』
「そうかよ」
『工藤さんは、何が一番可愛かった?』
 そんなことを尋ねられても困る。
 おまえが一番可愛かったと、そんなことを言えるはずもないのだから。いや、ここが自宅であれば言っていたのだが。
 適当に肩をすくめて返した。そんな工藤の仕草を、ただ言いたくないだけとでも思ったのだろうか。
『素直じゃなーい』
 黒羽は軽く、すくめた工藤の肩に額をぶつけてくる。そんな態度を人前で取るのは止めろと、思いながらに工藤は歩を進めた。進めた先には売店があった。
「寄ってくか?」
 尋ねれば、迷った様子を見せながらも、黒羽はこくりと頷いた。男二人で土産物屋に入るのもどうかと思ったが、そんなことを言えば、男二人で動物園に来ていることからして問題なのだろう。考えたところで仕方ない。
 何か隣家にちょうどいい土産でも見つかればいいと思った。間違ってもぬいぐるみなどを喜ぶ相手ではないとわかってはいたが、ならば代わりに適当な菓子でも買えばいいと思ったのだ。
「……黒羽?」
 いつの間にか、視界から黒羽の姿が消えていた。それでも店内はさほど広くはない。
 すぐにその姿は見つかった。黒羽の前には、一面様々なぬいぐるみが並べられていた。土産物屋らしいと言えばそうなのだろう。
「どうした」
 肩と叩きながらに尋ねれば、黒羽は静かに顔を向けた。嬉しそうな笑顔だった。
 ―――これ。
 相変わらず、外に出ると黒羽は声を発しない。指差す方に視線を向ければ、可愛らしいぺんぎんのぬいぐるみがあった。子ペンギンとでも言うそのぬいぐるみが。
 ―――可愛い。
 色違いの子ペンギンだった。青色と茶色。隣には親ペンギンの姿もあり、それは先日工藤が土産にと買ってきたそれをそっくりだった。なんて偶然かと思ったが、そもそもペンギンなんて、そう姿に差異のあるものではないだろう。当然のことなのかもわからなかった。
『佐藤さんの子供みたい。可愛い』
 にこにこと黒羽は笑っている。欲しいとねだられたわけではなかった。黒羽にもそのつもりはなかったのだろう。それでも構わなかった。
「……ほら」
 青色と茶色と、それぞれの子ペンギンを掴んだ。歩きだしながらに、その辺にあった菓子も、これまた適当に掴んだ。何だっていいだろう。土産なんて、どれを選んだところで変わりはしないのだ。
 つんつんと、袖を引っ張られたことがわかった。気付かない振りをして、レジに向かった。袋に入れられたそれを、押し付けるようにして売店を出た。当然、黒羽も後を追ってきた。
 ―――工藤さん。
 結局は、顔を向けてしまうのだ。黒羽は笑っている。大事そうに袋を抱きしめて。
 ―――ありがとう。
 どういたしましてと、言うこともできなかった。


「この子達の名前は何にしようか」
 案の定、動物園から帰って来た早々に、黒羽はそんなことを言い出した。
「好きにつけりゃいいだろ」
 予想はしていたから、もはや工藤も驚きはしなかった。当然のように言い捨てて、飲み物を淹れにキッチンへと向かった。貰い物のチーズがあったことを思い出し、コーヒーを淹れず、ワインと共にリビングへと戻った。
「うーん」
 多少の時間が経っていたと思ったが、黒羽はいまだ名付けに悩んでいたらしい。
 いくら悩んでくれたところで構いはしないのだが。そんな姿を見ながらに、工藤はワインをぐいっと喉に流し込んだ。
「おまえも飲むか」
 グラスこそ持ってきていないものの、別段黒羽に飲ませるつもりがないわけではないのだ。
 尋ねた工藤に、工藤はぱっと笑顔を返してきた。
「決まった!」
「……何が」
「この子達の名前ー」
「……あぁ」
 そうだろうとわかってはいたが、あまりの気の抜けた会話に嫌気が差す。いや、気が抜けると言うべきか。
「……どんな名前にしたって?」
 聞きたいわけではないが、流れとして聞かないわけにはいかないのだろう。
 いつの間にやら、傍には先日のペンギンの姿もあった。今や親ペンギンとでも言うべきか。
 黒羽はそのぬいぐるみを、家へと持ち帰りはしなかったのだ。ただ恥ずかしかっただけなのかもしれない。工藤だって、それを黒羽の母親に、自分がプレゼントしたのだと知られたら、恥ずかしい思いをしたことだろう。だからそのまま、工藤の家に置かれていることは良かったのかもわからない。
「シオトコショー」
「……ん?」
「だから、シオさんとコショーさん」
 こっちがシオさんで、こっちがコショーさんと、わざわざに黒羽は教えてくれる。
 それによれば、青色の方がシオさんで、茶色の方がコショーさんなのだという。つまりそれは。
「佐藤さんが親だから、子供は塩と胡椒さん」
「……佐藤さんってそれか? 佐藤じゃなくて砂糖なのかっ!?」
「いやぁ、最初は佐藤さんのつもりだったんですけどー」
 笑いながらに黒羽は言う。言って、手元の子ペンギンへと話しかける。
「なー、塩さん。コショウさーん。これから親子一緒に仲良く暮らそうなー」
 黒羽はとんでもなくご機嫌だ。ちゅっちゅと子ペンギンにキスを贈るぐらいには。
「……するならオレにしろよ」
 そんな呟きを漏らせるのは、その声が、黒羽には聞こえていないとわかるからだ。顔がこちらに向いていないからこそ。
「あー、やっぱりペンギン可愛いなぁ。工藤さん、また今度一緒に動物園行こうね」
 笑顔のままに黒羽は言う。
 だから可愛いのはおまえの方だと、やはり工藤は言うことができなかったのだった。

[13.05.11]
「SS stories」でも名付けエピソード(?)がありましたが、名付け好きな快斗が可愛いなと。
ちなみに佐藤さんと塩コショウさんは、その後工藤さんのベッドに置かれてます。