頭ではわかっているのだ。
新一だってそう子供ではないし、クラスの男子達だって中には経験済みの輩がいるぐらいなのだ、それよりも年上の快斗なんて言うまでもないだろう。
新一があまりにその手のことに対して疎いから、だから快斗もまた子供扱いをするのかもしれない。
「……子供じゃねぇんだぞ」
盗一にはああ言われたが、やはりどうにもわからない。しつこく食い下がる新一に、面倒になって頷いただけではないのか。影ではどこか他の美人と、仲良くしているのではないのかなんて。
「……いや別に、そこまで疑ってるわけじゃねぇけど」
不誠実な男だとは思わない。二股をかけるぐらいなら、きっとあっさり新一を振ることだろう。考えれば心臓の裏がひやりと冷たくなった。嫌な想像を振り払うように、新一はぷるぷると頭を振った。
快斗はまだ帰っては来ない。今日は遅くなると言っていた。再び無人の快斗の部屋に入り、パソコンを立ち上げた。傍に転がっていたイヤホンを差し込みながらも、早くも心臓が早鐘を打っていることに気付いた。何せ今から、まずいことをしようとしている。
小さく息を吸い込んでから、先ほどは慌てて止めたDVDを、再び再生し出した。クリック一つでとたんに動画は動きだす。どこかのホテルの一室だろうか。ベッドの上で、セーラー服を着た女性が、恥じらいつつも大胆にスカートをめくっていく。
「……え、ちょ」
恥じらいつつ、なぜそんな躊躇いもなくスカートをめくるのだ。
そもそもそのスカートは短すぎやしないか。少し動いただけでも下着が見えそうだ。現にもう下着なんて丸見えなわけで、それもまた、下着の意味をなしているのかと問いたくなるような、実の面積の少ないそれだ。紐を摘まみながらも、視線はちらちらとこちらを向いてくる。恥じらっているのか、ただもったいつけているだけなのか。
「う、わ、ちょっと……っ!」
両足を惜しげもなく開いたまま、そんな下着の紐を引っ張ってしまえば、後はどうなるかなんて見なくともわかるというもので。
耳に差したイヤホンからは、「恥ずかしい」だの「あんまり見ないで」だの、実に可愛らしい声が聞こえてくるが、言っていることとやっていることがまるで逆だ。見ないでほしいのなら、なぜ自分から脱ぎ出すのか。恥ずかしいと言いながら、どうして惜しげも無く両足を開いているのか。意味が無いほどの小さな下着は、けれど投げ捨てられることもなく、足首に纏わりついている。指の間から、新一はただそれを確認することしかできなかった。
「―――っ」
ダメだ。
こんなものを、とてもではないが直視なんてできない。
セーラー服をいうのが、またいけないのかもしれない。新一の通う高校はブレザーであるが、どうしたってクラスメイトの女子を想像してしまう。このグラビアアイドルが本当に女子高生かはともかくとして、この浮かぶ背徳感は何だろうか。幼馴染の女の子が、つい頭の片隅に浮かんでしまうだなんて。
クラスメイトが持ってきた雑誌を、ちらりと覗いた程度のことならもちろんあるのだ。あまりに胸を押しだした女性よりも、かっちりとした衣服が少し着崩れたような、そんな女性の方が好みかもしれないとは思った。
女性の身体に、丸きり興味が無いわけではないのだ。男としての本能なのだから仕方ない。
ただ、これはダメだ。ここまでのものを求めているわけではない。そもそもこんなDVDなんて、新一は見たくも何とも無かったというもので。
恐る恐る顔を向ければ、いつの間にかセーラー服を脱ぎ去った女性は、これまた恥じらう表情を見せつつも、さらに下着に手をかけたところだった。女性の生まれたままの姿なんて、新一はまともに見たことはない。それこそ幼い頃、母親と風呂に入った時ぐらいのことで。
「……何やってんだ?」
声はあまりに近くから聞こえた。
ぽんっと頭を叩かれる。これ以上無い程に身体が震えた。いや、もしかしたら飛び上がっていたのかもしれない。
「な、な……っ」
「オメーな、こんな夜中に、人の部屋で何やって……」
声は途中で途切れた。
動いた拍子に、両耳からイヤホンがぽろりと落ちる。ボリュームは元々抑えていたため、はしたない声が辺りに響き渡ることがなかったのは、幸いと言うべきか。
いや、問題はそこではなくて。
「か、か、かい……」
名前も呼べない。口の中は、いつの間にかカラカラになっていた。
仕事帰りの快斗の視線は真っ直ぐにパソコンの画面に向けられており、言い訳なんて何もできる状況ではなかった。イヤホンまでつけて、これで間違って再生してしまったなどと、言えるわけもないだろう。そんなことは新一自身がよくわかっていた。
どうしようもない。
「……へえ」
長い―――新一にはとてつもなくそう感じられた―――沈黙の後に、快斗は小さな声を上げた。生えてもいない顎髭をさするような仕草は、盗一にずいぶんと似ている。そんなどうでもいいことを考えずにはいられなかった。ぐっしょりと全身が濡れている。驚く程の手汗だった。
「オメーもとうとう、隠れてこんなのを見るようにねぇ」
「なっ、ば、ちが……っ!」
「まあまあ、男ならだれでも通る道だろって。つーか、オメーが全然興味示さねぇもんだから、オレは心配してたんだぜ? おまえホントに興味がねぇのかってな。そりゃ健全な男子高校生としてどうよってな。いやー、良かった良かった。オレの心配が杞憂で良かったぜ」
で、どうだった? 抜けたか? とやらしい顔で、とんでもないことを尋ねてくる恋人の顔を、新一は思い切り拳で殴りつけてやった。
[13.12.19]
13.10.27発行(14年1月完売) A5/オンデマ/82P/\500
木苺さんとの合同誌。年の差同設定物を一話ずつ担当。